地上波初放送されてもなお「君の名は。」を見あぐねている新海誠ファンの諸氏へ

1月3日に「君の名は。」が地上波初放送された。

 

そんな風にお手軽に観れる機会さえもスルーして「君の名は。」を見あぐねている新海誠ファンがいると思う。もしくは別に新海誠ファンじゃないけどなんとなくいけ好かないな、とか、あんまり好きじゃなさそうだなと思って見ていない人もいると思う。多分私も公開されたときに思い切って観に行っていなかったら、「君の名は。」はスルーしてたと思う。でも公開時に観に行って、はぇーこれはよく出来てる…めっちゃ好きだ…と思ったし、「新海誠追いかけて来て良かった」と心底思ったので、見あぐねている新海ファンは特に見てほしいなって感じます。

 

公開されてから「君の名は。」が社会現象レベルではやり始めたとき、正直観に行こうかめちゃくちゃ迷った。それはたぶん人生に刺さるような映画に「秒速5センチメートル」や「ほしのこえ」が挙げられるからで、12~3歳の時の新海作品との出会いがあまりにも強烈すぎて、同じものを求める気持ちがあったからだと思う。

 

予告だけ見ると、「君の名は。」っていかにも商業主義的に映るし、「『方言をしゃべる可愛い女の子』とかいう安直で売れ線狙いのキャラ出してんなぁ」みたいにひねくれて捉えてた。それに「細々と自分の思い出のなかだけで楽しみたい」みたいなものが新海誠だったのもある。RADWIMPSもそうだったから、よけいに見に行けなかった。周りからの持ち上げられ方も好きじゃなくて、気後れしてた。

 

でも実際は「君の名は。」を観て号泣だった。初見ではホントにちょっと引くくらい泣いてた。

 

君の名は。」は、前半はいままでになく楽しくて、瀧と三葉の応酬が良かった。友達でもなく、かといって恋仲でもなくて、お互いに好きかも分からないままで、なんなんだお前!ってぶつくさ思いつつ、どんどん雑になっていく感じが楽しかった。

新海作品で、初めて楽しくて笑いながら観たとおもう。「君の名は。」の導入はホントに楽しかった。楽しく見れるっていうのが今までとちがうなぁって思った。新海作品を見るときって、身構えて眉根寄せて観てた。自分の忘れられたらどんなに…っていう記憶とかを引っ張り出してきたりして、重ねてなぞった。でも「君の名は。」はそういうんじゃなくて、素直に楽しくて笑えて、そこが良かった。

 

でもそういうお互いの入れ替わりの日常のなかでも、入れ替わっているそのせいですれ違う人間関係というものがあり、時々本当に身が切られるように切実な痛みがあった。うわ、この人そういうところまじさぼらないっすよね。絶対刺しにに来るよね。ってくらい完璧なえぐられ方で、そういうところは変わらず新海作品らしくて良いっておもった。

たとえばデートの最中に先輩に「瀧君なんだか今日は別人みたい…」って言われるところとか最高にしんどい。別人なのは三葉が入った瀧なのに、今日会っているのは本物の瀧なのに、本当の自分の時は好きな人に選ばれない。それでも「誰かと出会って変わっていった、一生懸命になっていったタキが好きだった」と、あとになって瀧のいないところで他人にポロっと零す先輩の気持ちとかも、考えると泣けた。

 

入れ替わることでいろんな人間関係が避けようもなく変化していってしまうし、それらは全部自分では止められない。いろいろなものが加速してしまうし、自分も他人の日常を加速させてしまう。良いとか悪いとかじゃなく、否が応でもそうなっていく。そういうままならなさが染みる。そういうことって私たちの日常でも起こりまくるのに、素通りしがちで、でも君の名はではちゃんと書かれているのめちゃくちゃいいなって思う。

 

入れ替わらなくなってから、二人が二人を切望している姿が静かで、そんなことあるよなと思ったりもする。人生って思い通りにならないし、だから大事にしたいって思うんすねって、素直にそう感じれた。

 

これで二人仲良く犯罪者やな!と威勢よく言った友人にも、声を震わせながら協力した親友にも、それぞれの人生に深刻な悩み事があって、超えられないしがらみがあって、でも死んじゃいたくないよ!って思いで、デカいことを成していくところが良かった。そういうスカッとしたシーンがあって、そこはいままでとちょっと違うなと思った。

 

君の名は。」を観て、強く思ったのは、人と人との出会いはものすごい勢いでそこらじゅうで起こりまくっていて、つかみ損ねたり忘れちゃったりするものだってこと。死なないで!って思ったり、行かないで!って思ったり、全部夢なのかもしれないと思い込もうとしたり、忘れたいことはなかなか忘れられないし、覚えていたいことは掻き消えるように記憶のどこかに遠のいてしまう。髪の毛の重さとか、肺に吸い込んだ空気の冴え冴えしさとか、ずんずん忘れてしまう。喜怒哀楽で区分けできない感情はもてあましながら、でもそんなしちまどろっこしいことは特に、どんどん消えて行ってしまう。

 

忘れちゃう、忘れちゃう、消えちゃうよ…って夕焼けを見ながら、お互いの手に名前を握らせることも出来ないし、覚えているのは強く求めていたということだけで、残滓を大切に大切にしながら、ずっとだれかなにかを探しているというのはつらいことだ。

 

再会して、二人の頭になにか鐘のような、ピースのハマるような音が鳴り響いても、始まる予感と音がしても、瀧は三葉との関係を思い出さないし、三葉も瀧との関係を思い出さない所がすごく良いなって思う。そこでダメ押し的に泣ける。もう一回初めからになるんだなって、そういうのって希望でもあるし死ぬほど絶望的でもあって最高っておもう。「君の名は。」ってたぶん新海誠作品の中では一番ポップだし、エンタメ性強いし、登場人物もきらきらで笑えるところも多いんだけど、めちゃくちゃ突き放してもいて「希望とか前進とか恋とか運命とか、そんな明るい言葉だけでは語れないでしょ」みたいな感じがするようにおもう。

 

忘れちゃったことは思い出せないし、人と人はこんなにもすれ違ってしまうし、無数の分岐点があって、それらが全て不可逆で、それでも過去を報いるためには今からの、これからのことを大事にしていくしかないねって思えて良い。いろんなことが変化して、もしかしたらもう駄目になっちゃってる関係もあって、でもそれでもやり直そうとすることが出来るのではないかと思えて、しんどいけど最高。もうレンタルは旧作扱いのはず。見てくれ…